不眠患者の約8割は睡眠状態誤認:ただし,それは日によって変動がある

問題

不眠症患者では、客観的睡眠と主観的睡眠の評価を比較すると、SOLを過大評価し、TSTを過少評価する傾向がある。この現象は、睡眠障害国際分類 (ICSD) の初版では睡眠状態誤認とよばれ、ICSD-3は逆説性不眠症と呼ばれている。これらの減少が、不眠症のサブタイプを表すのか、連続性に沿って変化する症状を表すのかについては、意見が一致していない (Harvey & Tang, 2012)。ある研究では、PSG記録と睡眠日誌から得られた絶対的な誤認識と相対的な誤認識指数(MI;誤認識を客観的な睡眠時間で割ったもの)に、二峰性の分布が見られた(Manconi et al., 2010)。この二峰性の分布は、非常に高いレベルの誤認識を持つIDのグループを示しており、誤認識が過大評価から中程度の過小評価までの範囲にある残りのIDとは明らかに異なっている。別の研究では、誤認識は、通常の睡眠時間(6時間以上)のIDにのみ発生し、短い睡眠時間(6時間未満)のIDには発生しないことが明らかになった(Fernandez-Mendoza et al., 2011)。

これまでのほとんどの研究では、12日の睡眠日誌とPSGを比較している。しかし、複数夜にわたって観察される睡眠時間と誤認の変動には、数夜の間や平均化では捉えられない重要な情報が含まれている可能性がある。そこで、本研究ではアクチグラフィと睡眠日誌から得られた複数の睡眠特徴量の夜間変動を、家庭環境下で複数夜にわたって測定することで、誤認識のサブタイプをより明らかにできるのではないかという仮説を立てた。ID患者と快眠者の大規模サンプルを対象に、主観的および客観的な睡眠時間の夜間変動と誤認を定量化した。そのために、自宅環境での7泊分の睡眠日誌とアクチグラフィから睡眠の特徴を評価し、データに基づいたサブタイプの発見に利用した。

 

【方法】

対象者 不眠症患者181 (age range = 22-69)、年齢と性別がマッチした快眠者のボランティア55 (age range = 22-70)

手続き 対象者は、自宅で7日間のアクチグラフィと睡眠日誌の記入を行うように求められた。

睡眠日誌 睡眠日誌は、紙またはオンラインで毎日記入させた。主観的に報告されたSOLと睡眠開始後の目覚め(WASO)を、消灯から最終起床時刻までの期間から差し引くことで、主観的TSTを算出した。

睡眠誤認 TSTの誤認識(mTST)は、個々の夜について、主観的TSTから客観的TSTを差し引いて算出した。

 

【結果】

睡眠誤認の分布 良好な睡眠者は、自分の睡眠を正確に見積もったり、過大に見積もったりする傾向があるが、IDでは分布が左にシフトしており、アクチグラフィで示唆されるよりも睡眠時間が短いと認識する傾向があることを示している(Figure 1)

誤認のサブタイプ 変数間の共線性を最小化し、データの分散を最もよく説明する5つの変数をサブタイプの抽出に使用した (客観TSTの平均、客観TSTSD、最短の主観的TSTTSTの誤認の平均、TSTの誤認のSD)3つのサブタイプを抽出した場合に最もモデルの適合がよかった。

サブタイプ1 サブタイプ1の平均睡眠時間は6.9時間で、日によって0.8時間の差があり、主観的には5.4時間以上と推定された(Figure 2)。サブタイプ1の平均的な誤認識は0.0時間で、日によって異なり、SD0.5時間であった(Figure 3)。このプロファイルを示したのは、IDを持つ人では少数派(22%)で、良好な睡眠をとる人では大多数(87%)であった。

サブタイプ2 サブタイプ2の平均的な睡眠時間は7.2時間で、日によって0.8時間の差があり、主観的な睡眠時間は4.1時間以上と推定された。サブタイプ2の平均的な誤認識は-1.4時間で、1時間のSDで日によって異なる。IDの半数(49%)と、少数の快眠者(9%)がこのプロファイルを示した。

サブタイプ3 サブタイプ3の平均的な睡眠時間は6.9時間で、日によって0.9時間の差があり、主観的な睡眠時間は1.7時間以上と推定される。サブタイプ3の平均的な誤認識は-2.2時間で、日によって異なり、SD1.5時間であった。IDの少数派(29%)と快眠者の少数派(4%)がこのプロファイルを示した。

 

考察

 主観的・客観的睡眠の誤認から求めたサブタイプは、3つに分けられ、そのうちの2つのサブタイプでは特に被験者内の評価の変動によって特徴づけられるものであった。サブタイプを最もよく識別できたのは、主観的な最短睡眠時間と、誤認識の平均値および標準偏差の3つの変数であった。誤認識への介入の効果はほとんど検討されていないが、関連性は高いと思われる。薬理学的および認知行動学的介入の効果は、サブタイプによって異なることが考えられる。このような知識は、介入方法の選択に役立つ可能性がある。

 

【感想】毎日5時間は眠れているかな…という人と極端な睡眠時間を報告する人(全く眠れなかった)がいるという臨床的な実感と一致する結果だと思いました。極端な睡眠時間を報告する人と客観的にも睡眠時間が短い人に客観的睡眠時間をフィードバックしてもあんまりよい方向に働かなかったような??誤認のサブタイプにおける介入選択について、今後の研究の中で注目していきたいと思った。(担当:乳原彩香)

 

出典:Te Lindert, BH, et al: Actigraphic multinight homerecorded sleep estimates reveal three types of sleep misperception in Insomnia Disorder and good sleepers. Journal of sleep research 29: e12937, 2020.